手を伸ばすには近すぎて、
肩を寄せあうには遠すぎて。




3人がけの座席がぽつんと空いていた。
僕と高崎は何も言わずに腰掛けると、必ず真ん中を空ける。
大の男が2人、しかもかなり背の高い僕ら。
隣りにつめて座るには狭苦しいから、乗客に余裕のあるときは自然といつもこうなった。
車両に人がまばらなとき、まるで2人だけのような錯覚を覚える幻の空白。
会話がふと途切れて、電車のリズムだけが響く。

なんの興味もないフリで、ちらりと高崎を盗み見る。
あいかわらず不機嫌そうだと誤解される表情のまま、無造作に横に置かれた手。

…触ろうかな。

考えてやめた。

近いから、近過ぎるから。
どうせ次の停車駅で人が増えるだろうから、僕と高崎の間に誰かが座る間までの少しだけだし。

ガタン、ゴトン、とその揺れに身を任せたままにした。



駅に近づいてきて、徐々に落とされるスピード。
この電車の運転士の腕はまあまあだな、なんて思う。

「宇都宮。」

駅に入る少し前、高崎が僕を呼んだ。
特に返事もしないまま気配を感じていれば、高崎が立ち上がったのがわかった。



すとん、と高崎がおもむろに座ったのは、僕の隣。

「…狭いんだけど。」
「我慢しろ。」

肩に触れるかすかな温度に、少しだけほっとしたのはたぶん気のせい。


[end]


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墨田ちゃんが日記にこそっと書いてたたかうつ(言い切った)を強奪しました。
身内の書(描)くすべてのたかうつは自分のものだと本気で思っています。ええ何か?

手を伸ばしたくて諦めてしまうのが宇都宮、
伸ばしたくない(と思っている)のに伸ばしてしまうのが高崎、
それでこの二人は微妙なバランスを保っているんじゃないかと。

あ、冒頭のイラストはクリックででっかくなりますよ(遅い)